アルバム『開闢の日』楽曲解説 其の弐
前回に続き、先日5月4日に発売した New Album 『開闢の日』 の野暮な楽曲解説をば。
しかし、最近はなかなか更新もせず、いささか廃墟と化しつつもあるこのコラムにもちゃんと覗きに来てもらえて本当に感謝感激。
前回は5曲目まで紹介させてもらったので、残り7曲。
では早速いってみましょうか。
6. 帰るべき場所
この曲と次の 「深吉野の声」 の二曲は2021年、奈良の東吉野村ドキュメンタリー映画に向け制作したもの。
(当アルバムには収録してませんが、もう一曲 とるこ作の 「三つの川」 というインストもあります。)
特に要望も指定も何もなくすべておかませだったので、自分が東吉野村の景色や雰囲気をイメージしながら純粋に感じたものをゼロから形にしていくものとなりました。
同じ奈良県下とはいえ、自分が生まれ育った奈良市内とはまた全く風情も景観も異なる場所。
その “特別感” を大切にしながらも、誰しもが故郷と思える場所 (生誕地であるかどうかは関係なく) に改めて想いを馳せることができるような曲にしたい、というところが最初にありました。
むしろ、そう思わせてくれるものが東吉野村にあったということかもしれません。
「名も知らぬ見慣れた花が 夏に咲いて冬に実を結ぶ」
「鳴き声は知っているけど 名も知らぬ鳥の名前を覚えた」
これは自分が春日大社を巡っていても、飛火野に佇んでいても、平城宮跡を歩いていても、いつも感じること。
普段は何気なく通り過ぎているけれど、ふとしたときに気になって調べてみたりもする。
そしていつも驚くこと多々。
それはなんと豊かで、幸福で、幸運なことなのだろう。
奈良市内でも十二分に感じますが、より自然豊かな東吉野村を含め、山間の奈良県中部以南に行くとそれをより感じることができます。
夏に咲いて冬に実を結ぶ花は、村の花 『ツルマンリョウ』。
そして鳥は 「渓流の宝石」 や 「飛ぶ宝石」 と言われる 村の鳥 『カワセミ』。
名を知らぬわけではないけれど、あの鳴き声はあの鳥のものだったんだ、なんてようやく知見を得ることなどは日頃からよくあります。
自分自身、かつてはこのコラムで、現在でもYouTubeでの 「調査放談」 など、あるいは様々なツールで奈良のことを発信していますが、本当にまだまだ教えたいことがたくさんあるし、連れて行きたいところがたくさんあります。
“君が聞いてくれるなら” ね。
7. 深吉野の声
前述の通り、東吉野村に向けて作った曲のひとつ。
ここは最後のニホンオオカミが見つかった場所。
明治38年、村の猟師がオオカミを捕獲して 「山犬」 はいらぬかと売り歩いていたところ (その時はそれが最後になるとは思いもよらず)、たまたまイギリス人貴族の援助を受けたアメリカの研究者が調査に来ていて、そのニホンオオカミを買ったとのこと。
その買い取ったニホンオオカミは大英博物館に寄贈され、後にその分館、現在のロンドン国立自然史博物館に移され、今もそこに保管されているらしいです。
三つの川が交わる丹生川上神社中社から少し西側に、東吉野村役場などがある村の中心地に 「鷲家口」 があり、そのあたりは高見川がちょうどUターンする場所で川の風情も素敵、ふと四方に目を見渡すと切り立った山々が眼前に迫ってくるような印象を受けるところです。
もう我々の前に姿を見せることはないだろうけれど、きっとまだこの深山 (みやま) の向こうにはニホンオオカミが今も生きている。
あ、ほら、あの遠吠えは…
なんてことを感じてやまない特別な景色がそこにあります。
一日中遊び倒せるアトラクションがある娯楽施設も、最新のファッションアイテムを手に入れられる商業施設も何もないけれど、その何十倍も豊かで他では得られないものがある場所。
それは (何でも手に入るはずの) 大都会にないものがあり、ただそこに佇んでいるだけで幸福感を体中で感じられるところ。
そこにとてつもない価値を見出せる人にとっては、そういう土地は何にも代え難いものになると思います。
8. 沈黙の音色
この曲は毎月必ず新曲を発表すると公約した昨年 2023年の5月、つまり5曲目の新曲でした。
そうそう、この曲はたしか入浴時にふとメロディが降りてきたのよね。
そして風呂に入っている間、忘れないように口ずさみながら、できるだけ急いであがり、まだ髪も濡れたままの状態でスマホに鼻歌を録音した記憶が…(笑)
そういう曲は概して “作った” という感覚より、“いただいた” というイメージになる。
なので歌詞も、日頃どこかで思っていたけれど、言語化などはしたことはないものなどが、堰を切ったように飛び出してくることがある。
現代はSNSをはじめ、インターネットが普及したことで、様々な人の暮らしや日常を目にすることが当たり前のようになっている。
それぞれの人のプライベートに直接関わることは無くても、密かに 「大変なんだな」 「がんばれ!」 「できればひと声かけたいけど、余計なお世話だよな」 なんて思うことも実はある。
本人は知らなくても、こっちが勝手に 「大丈夫かな…?」 「あぁ、良かったね…」 なんて勝手に一喜一憂していることなんかもある。
そんな人に、たとえ届かなくてもいいから、何か伝えたいな、と思って書いたのがこの曲でした。
ナルシスト全開で120%恥ずかしいけど、割と後半は涙溢れさせながら歌詞を絞り出してましたよ(笑)。
この曲をやり始めた頃も感情が先に出て、涙が出そうなところを抑えながら歌ってたし、レコーディングの時も感情が入るとヤバかったので、少し落ち着けるまで何度か録り直しました。
たぶん、誰かに向けて歌ってたつもりだったけど、自分にも響いてしまってたんだろうね。
でも、あなたに届いたらいいな、と思っていつも歌ってます。
そんな自分におこがましさを感じながらね。
9. 甦る傾城
この曲も昨年の公約新曲のひとつ。
4月だから、つまり4曲目。
前月の新曲 「梅か桜か、元の木阿弥」 (前回のコラム詳細) に続いて、5月に控えていた奈良は大和郡山の旧遊郭建築でのワンマンに向けて生み出した経緯がある一曲。
そこに打算的なものがあったわけではないけれど、その特別な機会に気持ちを向けている最中だから、どうしてもベクトルがそちらの方へ向かってしまってたのよね。
折しも、“大和な雛まつり” という恒例イベントが大和郡山市で開催されていた直後のこと。
その旧遊郭である 「町家物語館」 では大階段を始め、館内随所に雛壇が張り巡らされる頃合い。
非常に見応えがあるし、華やかなんだけど…
この子たち、この時まではずっと奥に閉じ込められていて、またこの数日間が終わったら来年のこの季節までしまわれてしまうんだよな…
なんて思ってしまったのよね。
それがまた悲喜交交が入り乱れる遊郭の当時の営みとリアルにリンクしてしまって、雛人形たちをかつての遊女たちに投影してしまったところで生まれた曲。
「傾城(けいせい)」 とは元々は漢書によるもので、国を傾ける (危うくする)ほどの絶世の美女、つまり国主がそれほど入れ込んでしまう女性のこと。
(中国史における 王昭君、則天武后や楊貴妃がそれにあたるのでしょうね。)
転じて、遊女・女郎、近世には特に太夫、天神など上位の遊女をさす言葉になったそうです。
決して派手な曲ではないと思いますが、ライブでは毎度静かな興奮を最後に解放できる、自分たち自身が密かにとてもアツい気持ちになれる一曲です。
中にはこの曲がベストなんて言ってくれる方もおられて、多種多様な感想や好みをお聞かせいただけるのは、何より励みになることだなといつもありがたく思っております。
さて。
あと三曲なのですが、なんだかんだと語ってしまったので、続きは次回とさせていただきましょうか。
兎にも角にも、お聞きいただけなければこれらはただの戯言でしかないので、ぜひとも一度じっくり味わっていただけることを願って…
また次回に繋げさせてもらえたらと思っております。
率直な感想やご意見は未来の糧となりますので、ぜひともお聞かせいただけると本当にありがたいです。
機会があればどうぞよろしくお願いします。
そして、いつもありがとうございます。
そんな New Album 「開闢の日」
公式Online Shop「ドドイツ」
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または、各ライブ会場にてお求めいただけます。
豪華16pブックレット付、紙ジャケット仕様。 限定枚数。
ぜひ、お手にとって、ゆっくりじっくり味わってください。
「開闢の日」 リリースツアー
■5月16日(木) 千葉 柏 Studio WUU
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■5月17日(金) 東京 STAX FRED
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■5月18日(土) 静岡 UHU
丸山研二郎&原口朋丈 × デ・オッシ
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■5月20日(月) 名古屋 BAR Strega
デ・オッシ × ときにきく
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■6月1日(土) 奈良 a_s art_scene(松前旅館)
デ・オッシ 生音ワンマン
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■6月15日(土) 滋賀 bochi bochi
ハナツムギ × デ・オッシ
『三弦と白黒のからくり唄紡ぎ』vol.5
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■6月16日(日) 大阪 京橋 BAR HEAVENSKITCHEN BOOST
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■6月28日(金) 新松戸 FIREBIRD
詳細未定
■6月29日(土) 東京 泪橋ホール
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New Album 『開闢の日』 Trailer
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